ふぇるみーにょ君の薬草日記

日本/地方/ボストン/アメリカ留学/大麻の話

人間誰しも一度は死ぬ。

ロナの影響から、大学のプログラムが全てリモートに切り替わったので、先日アメリカから日本へ帰国した。

本来であれば9月から新学期に向け心機一転、新たに住む場所を見つけ賃貸を契約する。という話だったのだが、その必要も無くなってしまった。

13時間の長旅を終え、日本へ帰国して直ぐに空港でPCR検査を受けた。結果は陰性だった。

ところが結果に関わらず、2週間は政府からお願いされている(半強制)自主隔離を行わなければいけなかったので、千葉にあるルームメイトの別荘でお世話になった。とても感謝している。

日本に帰国し、実家に戻ると必ず食べに立ち寄る近所のラーメン屋がある。

何の変哲もない昔ながらの醤油ラーメンなのだが、不思議な物で定期的に食べたくなる味だ。お店のおばちゃんとは仲が良く、いつも私のことを覚えていてくれる。昼からビールで一杯やりながらアメリカでのコロナの話や大学の話、数年前に亡くなった祖父の話などをした。

「おばあちゃんは元気?」そう言われてみれば、帰国してからまだ祖母に顔を見せに行ってなかった。「この後寄って帰ります」と告げ、残りのビールを飲み干しラーメン屋を後にした。

ラーメン屋の隣に小学校時代の同級生の家族が経営しているパン屋があるので、挨拶ついでにパンを買っていくことにした。

「就職はどうするの?」友人の親が皆、口を揃えて私に聞く質問だ。「大変ですね。どうなるんですかね〜」と上手い具合に誤魔化しながら、足早にお店を出た。

祖母の家はそこから5分くらいなのだが、"就職"という言葉を何度頭の中で囁いたことか。心配はありがたいが僕のペースでやらせてくれ。大丈夫だから。

祖母の家に着くと、家の中の明かりを付けるところから始まる。どういう訳か祖母はいつも薄暗い部屋の中で身体を丸めて寝ている。耳がとてつもなく遠いので、紙とペンを用いて筆談で話をしていく。話を聞いていくと、どうやら歳を取ると体が痛いところだらけなので寝てるのが一番楽ということらしい。そして祖母は会う度に「早く楽になりたい。」と口にする。縁起でもない話だ。

好きな場所に行く体力もなければ、緑内障の影響で綺麗な景色を見ることも出来ない。生きていても仕方がないと強めに主張してくるのだ。少し話題を変えたかったので好きな食べ物は何かと聞いた。すると、「親子丼と牛丼」と一言。93歳の祖母は高校生男児のような物が好きらしい。まだまだ生きそうだ。

すると突然、祖母は微笑みながら私にこう言った。

「人間誰しも一度は死ぬから、心配しちょし。」

祖母の小さい身体から発せられた力強い言葉に、私は思わず笑ってしまった。

一際裕福というわけでも無かったが、服屋を営む祖父と結婚し子宝にも恵まれ、孫の顔も拝めたということで、祖母には後悔が何もないらしい。あとは私の就職が決まったら安心して逝けるとのことだ。それはそれで何とも就職しずらいが、ごもっともである。

そうした一連の話を聞いている内に、「もっと長生きしてくれ」なんていう言葉は違うのかもしれないという気持ちが生まれてきた。

「人間のゴールはこれなのかもしれない。」何か大きな目標を掲げ、なりふり構わずそれを目指していくのも良い人生だろう。しかしもう少し落ち着いて、目の前の幸せを日々噛み締めながら、歳を取っていく。これもまた美しい人生の形だ。

私は祖母の家を後にし、少し肩の重みのような物が降りたような気さえした。もう少しの間よろしくばあちゃん。